前『ゼクシィ Premier』編集長で現在は大手化粧品メーカー「エイボン・プロダクツ」で役員を務める小林高子さん(49)。

2012年にウェディング誌で初めて同性カップルの結婚式を掲載したことでも話題になり、敏腕編集長として知られる小林さんですが、2015年に25年間勤めた「リクルート」を退職。フリーランスを経て、これまでとはまったく文化も業種も違う化粧品メーカーに“初めての転職”を果たしました。

4月末に東京・新宿の複合商業施設「NEWoMan(ニュウマン)」の1周年を記念して開催されたイベント「NO NAME JACK LIVE」に出演した際は「NO NAME」(あたらしい=無名)をテーマにスピーチ。

「業界外の会社に行って、頑張って戦ってみて無力さを感じた。それでも戦ってまだまだチャレンジできると思えたことに本当の自由を感じた」と話し、集まった約200人の観客の心を惹きつけていた小林さんに、「仕事で鍛える筋力」など話を聞きました。

「自分はこういう人」と決めつけない

——スピーチで「初めての転職をして2日目で甘かったと気付いた。会社に行きたくなくて電車の中でも憂鬱で仕方がなかった」というお話をされていました。「小林さんほどの人でも『会社に行きたくない』って思うんだ」と気が楽になりました。

小林高子(以下、小林):そりゃありますよ!(笑)

——そして、50歳を前に「初めての転職」をされたと聞いて「何歳になってもチャレンジはできるんだな」と明るい気持ちになりました。

小林:「決めつけ」がもったいないなと思うんです。「私はこれができない」「苦手です」、と決めつけてしまうことって結構あるんじゃないかな。

初の転職ということもあって、今回チャレンジするか本当に悩んだのですが、やってみると「自分はこういうこともできるんだ、まだ伸びしろあるじゃん」と思えた。やってみたいと感じたら、とりあえず飛び込んでみて、トライしてみるのことが大事だとつくづく思いますね。

例えば、30年ほど前は「結婚適齢期は25歳まで」と言われていましたが、今はまったくそんなことはない。誰もが正しいと疑わない常識も、時代とともに変化していきます。それと同じように「自分には無理」という考えも思い込みに過ぎず、自らの可能性を狭くしてしまっているかもしれません。

30代は「失敗できない」お年頃?

——20代の頃は“頑張り”や“努力”が評価されて失敗もある程度は許されていたけれど、いよいよ30代になると結果を求められて「失敗ができない」って自分自身を縛ってしまうこともあるのかなと思います。

小林:そうですね。私も30代で編集長として担当していた媒体を廃刊にしてしまったことがあるんですが、一番後悔したのは「もっとできることがあったはず」とか「もっとなりふり構わずやればよかった」という思いが残ったことです。

ちょっとした見栄とか焦りなんだと思いますが、苦しかったり、どうしていいかわからないという迷いを、周りの後輩や部下に見せられない。30歳も過ぎれば一通りのことを経験してキャリアがあるように見えるし、わかっていて当然と思われるから、できないことを見せちゃいけない、と自分で自分を縛ってしまう。

でも振り返って思うのは、やるべきだと判断したことは誰に反対されようと「やる」と主張すべきだったし、どうしてよいかひとりで悩むのではなく、後輩でも遠くの部署のひとでも知り合いの知り合いでも、躊躇せずに相談すればよかったということ。

ウートピを読んでいる皆さんにアドバイスをするとしたら、失敗をした時に「自分ダメじゃん」と、自分を丸ごと否定して落ち込むのではなく、なぜ失敗をしたのかを事象として冷静に捉えて分析することが大事です。

失敗の原因には、会社の方針転換や世の中の経済状況の変化などどうにもできない不可抗力もありますからね。

——不可抗力、ありますね。

小林:そうそう、あるでしょ? だから「どうしようもなかった」ことと「次はここを変えよう」という改善点を明確にしておくのがポイントです。

あとは、人のせいにしない、というのもありますね。「自分の人格を否定しない」と言ったけれど、それは他人に対しても一緒。人格ではなくて“コト”として捉える。人に起因することだったとしても、「担当するには時期尚早だった」とか「得意分野と合っていなかった」など、“コト”として。そうすれば冷静に失敗を見つめることができると思います。

「小さな幸せ」を味わって

——なるほど。確かにそうですね。

小林:繰り返しになりますが、一番やってはならないのは自分の人格や能力を全否定してしまうこと。そうすると自分自身を信頼できず、前に進めなくなってしまいます。失敗も結局自分以外はたいして覚えていないもの(笑)、そんなもんです。失敗をきちんと振り返って次に生かせばよいのです。自分にとっても周りにとっても、それが最良のリカバリーになります。

そして、小さな達成感は味わった方がいいですね。私は「小さな幸せ」と呼んでいるのですが、例えば「締め切りに余裕で間に合った」とか「今回のプレゼンはうまくいった」、「語彙力が上がったな」とか(笑)。自分のちょっとした”成長”を褒めてあげる。「よし!よくやった」と。これ結構効果があるんですよ。

30代は「どんどん恥をかけ」

——30代でつけておいたほうがいい“仕事の筋力”は?

小林:恥をかくことかな。

——えっ、まだ恥をかいてもいいんですか?

小林:いいんです(笑)。20代はわからないことも多くて失敗して恥をかいても仕方ない、でも30代になったらそろそろ落ち着かないと、と思っていませんか。30代は失敗して恥をかきたくないから挑戦することが怖くなってしまう時期でもあります。それではもったいない。何か新しいことにチャレンジする時に「無理だよ」とか「おかしいんじゃない」というような外野からの根拠のない横槍が入ることもあります。そんなときに、言わせておけばいいと流せる、ある意味厚顔無恥さを身につけるというか……。

40代になると経験から学ぶこともあり、あまり失敗しなくなるでしょうし、恥もかきづらくなる。さらにアドバイスしてくれる先輩も少なくなります。「アホじゃないの?」と言われても気にしない、そんな筋力を30代のうちにつけておけば、チャレンジの機会を失敗したくないという思いで逃がす、ということもないでしょう。

ただ、セットで持っていないとならないのは目的。このためにやるんだ、という強い思いがあってこその「ツラの皮の厚さ」かもしれないですね。

■「NO NAME JACK LIVE」
表舞台で輝くのは一瞬。でもそこには、無名の時間を重ねて、何度でも肩書きを捨てて、未来を手にしたそれぞれの人たちの裏のドラマがある。そして、いつかの無名たちがこの世界を変えていく。無名だった人たち、それでも自分の道を信じ続けて、花開いた人たち。そんな彼らの努力を重ねた過去、そして光の当たらない毎日の裏舞台をドキュメンタリーストーリーとして体感できるイベントとして、4月22日に開催されました。今回、個別取材に応じてくださったエイボン・プロダクツ取締役の小林高子さんのほか、ジュエリーブランド HASUNA 代表の白木 夏子さん、日本テレビ 報道局社会部記者兼キャスターでNPO 法人「マギーズ東京」共同代表理事も務める鈴木美穂さんらが登壇しました。

(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)