皆さんは、ときどき自分の母親のアドバイスに息苦しさを感じることはありませんか? 仕事一筋でがんばっていこうと決めたとき。育児休暇中で孤軍奮闘しているとき。共働きで夫と手を取り合って頑張っているとき……。

年をとると、はっきりと意見を言ってくれる人は少なくなっていきますから、自分の人生のありとあらゆる選択について、率直な意見を述べてくれるのはありがたいもの。

とはいえ、身近な存在だからこそ、境界線を見失いやすく、心の“繊細な部分”にズカズカと土足で入ってこられるような気持ちになったりすることがあるかもしれません。

今回は、息苦しさの原因ともなっている母と娘との“幸福感の変化”についてお届けします。

Bizlady読者の母親がモデルとしていた「幸せ」とは……

母に意見され、ちょっとモヤモヤすることの1つが、結婚観ではないでしょうか。

少し前、結婚情報誌ゼクシィのCMのキャッチコピーが話題になっていました。それは、

「結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです」というもの。

結婚は今や、人生のあらゆるオプションの1つとなりつつありますが、「幸せになるためには、まず結婚だ」というのが、BizLady世代の親の多くが共有している価値観。

聖心女子大学の岩上真珠教授の著書『ライフコースとジェンダーで読む家族(改訂版)』によれば、「20世紀のある時点までは、多くの人には共通のモデルがあった」といいます。

それは、20代半ばまでに“1度だけ”結婚し、夫を支え、子どもを産み育てるというもの。理想のモデルであり、女性が1度その道を選んだなら、他の道がチラリと見えても、見ないふりをしていた時代です。

もし、親が「そろそろ結婚を」と口を酸っぱくして言っているのであれば、娘に「結婚して幸せになる」以外の道を指し示すことができずにいるからかもしれません。

「母親が家にいるのが一番」子育てこそ“生きがい”だった時代

現在は、共働きでなければ子どもの教育費をまかなえない時代に突入しつつあり、「母親は家に」という旧来の価値観とのせめぎ合いに悩む方もいるかもしれません。

結婚の延長戦上の子育てこそが女性の生きがいだと考える母親世代は少なくありません。

人類学者である故・綾部恒雄教授が編集に携わった1982年出版の『女の文化人類学』では、様々な国の女性が生まれてから老いていくまでのライフスタイルが紹介されています。

当時の日本人女性の生き方の傾向としては、「周囲の枠の中に自分をはめこむことによって初めて生き生きした自画像を展開させる」と分析されています。

周囲から許可を得て結婚し、母親という“枠”にはまっていくことで、初めて自分の意志や判断で思い通りに動くことができるようになるというのです。

育児を通じ、様々なものを犠牲にしつつ、自己否定と自己充足とが混ざり合い、子育てが生きがいとなっていくのでは……と当時の執筆者は推測しています。

しかし、歴史的に見て子育てが自己実現の手段となっていた時代は、ほんのわずかな期間。

自分の母親のように「子どものために」と自分に言い聞かせ、やりたいことを後回しにし、子育てをたった1人で負うことは、必ずしも正解ではない可能性があり、私たちは、自分で自分の正解を探す必要があるといえるのではないでしょうか。

夫のバージョンアップは妻次第……「内助の功」という生き方

「男性に家事なんてさせちゃダメ。おいしい料理さえあれば、オトコは帰ってくる」と教えられている女性も珍しくないのでは?

今は、1日中煮込んだビーフシチューの価値があまり珍重されない時代でもあります。

前出の『女の人類学』では、日本の主婦の役割として、家族の全面的なサポートの他に「夫の身の回りの世話」が加えられるという著述があります。

現代でも同様に、山内マリコさんの小説『かわいい結婚』で、主人公の女性が義実家から“息子の世話”を頼まれ、「世話するって、つまりその人の分の家事をやるってことだったのか」……と気づき、がく然とするシーンがあります。

“企業戦士”として働く夫のために、右のものを左に動かすことまでサポートをすることが“良妻”であり、夫に家事をさせるなんて、主婦として失格。

そんな思いから、「内情の功で、しっかり支えないと」「夫の甲斐性は妻次第」といった言葉が自然と母親世代の口から出てくることもあるでしょうが、20代~40代の女性にとっては「私は彼のママじゃない!」という気持ちになる方が多いのではないでしょうか。

以上、母親世代と娘世代とで異なる3つの価値観についてお届けしましたが、いかがでしょうか?

親世代が必死になって幸せだと信じて守ってきたものが、今、変化の波にもまれています。「仕事をガンバっても…“居場所がない男性”の生きづらさの原因とは」でお届けしたように、家庭で“お世話”されてきた男性が、居場所を失う後姿を見ているBizLady世代。

親が経てきた社会背景も想像しながら、息苦しいアドバイスを適度にスルーする術も身につけておいた方がいいかもしれません。

【参考】

※ 岩上真珠(2003)『ライフコースとジェンダーで読む家族』(有斐閣)

※ 綾部恒雄 編(1982)『女の文化人類学 世界の女性はどう生きているか』(弘文堂)