「尊敬できる上司がいない」
「管理職になりたくない」
「がんばりが認めてもらえない」
「やりたい仕事ができない」

などなど、会社という組織の中で働く私たちが感じている煩悩の数々。

いい上司もいないし、憧れる女性の先輩もいないし、ああ、なんて私は運が悪いんだろう……。と、自分の置かれた境遇をうらめしく思ってしまうこと、ありますよね。でも、実は私たちがこうして悶々としていることのなかには、すでに研究され尽くして法則や理論になっているものも、少なくないんです。

前回からスタートした全5回シリーズでは、人材マネジメント・人材開発を専門とされている東京大学准教授の中原淳(なかはら・じゅん)先生に、私たちが職場で感じている数かぎりない煩悩をわかりやすく解説していただきます。

「なんで、自分だけ……」と理不尽に感じていることも、あらゆる組織に見られる「法則のひとつ」とわかれば、気がラクになるかも?

第2回のテーマは「なんか、頭打ち感がある」です。

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ぬる〜く、ゆる〜い煩悩

——20代の頃はひとつの仕事をするたびに、新しく学べることがあったし、成果を出せば「がんばったね」と上司や先輩から褒めてもらえました。でも、最近は仕事もルーティン化してきて、全力でやらなくてもなんとかなるし、得られる刺激も減ってきて。成果を出しても出さなくても、特に何も言われないし。ひと言でいえば、「仕事にハリがない」というか。

中原淳先生(以下、中原):要は、これといった大きな不満とか問題はないけれど、今回のテーマの通り「なんか、頭打ち感がある」ってことですね。

——そうなんですよ……。「こんな会社、辞めてやる!」って、啖呵を吐けるような超具体的な不満があればまだいいんですけど、なんか、ぬる〜く、ゆる〜く、しんどいんです。別に今のままでも誰からも何も言われないからいいんですけど、自分のなかで、なんだかなあ、って。

中原:ああ、わかりますよ、そのぬる〜く、ゆる〜い煩悩(笑)。いろんな企業を調査していても、そんなふうに20代後半から30代にかけて、頭打ち感を感じたり、やる気がダウンしたりしてしまう人は、実際かなりいるんですよ。

実はこれも「実務担当者・気枯れモデル」と呼ばれるもので説明できます。このモデルは私自身が、半分冗談、半分本気で唱えているものなんですが、ちょっと次の図を見てみてください。

——おお、さっそく煩悩に名前がついた(笑)。

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中原:日本の企業は、どこもだいたい新卒教育にとても力を入れているんです。社会人としてゼロの状態で入社しても、手取り足取り教えてもらえて、こまめにフィードバックをもらえる。こうして大切に育てられる期間が、だいたい3年くらい続きます。「海外で活躍できるような人材になってほしい」とか、「女性のリーダーになってほしい」とか、夢いっぱいのメッセージを会社からふんだんに伝えられる。時にはガミガミうるさいほどにね(笑)。

ところが、そのあとは管理職になるまで、ずーっと放置されたまま、まったく構われなくなるんです。IT企業だと30代半ば、伝統的な日本企業だと40代前半まで完全放置プレーなんですね。

——そうか……26、27歳から10年以上放置なんですね。まさにウートピ世代は絶賛放置プレー中なのかあ。

中原:そうなんです。会社からNo message No feedbackの時代が10年以上も続いちゃうんです。これといった教育の機会もないし、ビジョンらしきものも示されない。期末などに時々、「ちゃんと数字出してるか?」とハッパをかけられたり、「とりあえず仕事して」と念押しされたりするだけ。この期間に、気持ちが枯れてバタバタと離脱していく現実が、「実務担当者・気枯れモデル」です。

——要は、20代半ばから始まるこの放置プレーが、私たちのぬる〜く、ゆる〜い煩悩の原因なんですね。

中原:そういうことになりますね。

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5年目の女性が「もうええわ!」となる理由

中原:しかも、この放置プレー期間に絶望してしまう割合は、男性よりも女性の方が断然多いんです。

こんなデータがあります。新卒で入社する時点で「できるだけ早いペースで出世したい」と考えていた人のうち、5年後も同じように考えていた人は男性が約53%、女性が約29%まで減ってしまうんです。つまり男性は半減、女性にいたっては7割も減っちゃうんですね*。入社後、何年目から放置プレーに入るかは会社によって差がありますが、5年後には結構な割合で絶望し始めるということです。
*中央大学大学院戦略経営研究科ワーク・ライフ・バランス&多様性推進・研究プロジェクトが、国内大手企業8社を対象に実施した調査結果。「社員のキャリア形成の現状と課題(2016)」

——「バリバリがんばるぞ!」って入ってきた女性が、5年後には7割が「もうええわ!」ってなっちゃてる現実……なんか悲しいですね。

中原:特に女性の場合、この時期に「もうええわ!」ってなりやすいと思うんです。大学の同級生などまわりが結婚し始めるし、年齢的なリミットも意識して産み時も気になる。そのタイミングで、職場で放っておかれたり、マンネリを感じたり、教育のチャンスがないのに「成果出せ!」とだけ言われていると、「もうええわ!」ってなっちゃうと思います。

しかも、自分の目の前を走ってる女性の先輩が、出産してからヒマ部署に異動させられたり、お荷物的な扱いをされたりしているのを見せられるわけでしょ。みんな優秀ですから、それをちゃんと観察学習して、なおさら「もうええわ!」ってなるのは当然ですよ。

——ですよね。「10年後、こうなっていたい」っていうロールモデルもないしアラサーにして早々に頭打ち感を持っちゃうんですね。

ロールモデルなんか幻想です

中原:今、「ロールモデルがない」とおっしゃいましたけど、本当にそうなんでしょうか。実は私はちょっと疑っていて。

——というと?

中原:女性が会社で活躍し続けられないのは、女性のロールモデルがないから、みたいな話をよく聞くじゃないですか。あれ、ちょっとおかしいと思うんです。

よく言われる「ロールモデル」って、実は会社が決めたものですよね。普通じゃない精神力と体力でバリバリ働いて、そこそこのポジションまで登り詰めはしたけど、高止まりしている女性。そういう女性を指して「彼女をロールモデルにしよう」と言っているわけだけど、20代、30代の女性にしてみれば、「◯◯さんはすごいですけど、私にはちょっと……」と引いちゃうのが本音じゃないですか?

——確かに、会社から期待されてる像と、自分の理想像は結構ズレてるような気はしますね。

中原:そうでしょうね。日本でロールモデルというと、「あんなふうになりたい!」と全人格を投影できる憧れみたいに言われるけれど、そんなことないと思うんです。あの人のスキル、あの人の身のこなし、あの人の発想……というふうに、性別に関係なくいろんな人のいいところをツギハギして、各人が「自分はこんなふうになろう」と思えるのが、本来のロールモデルじゃないのかな、と。

——「ああなりたい」の「ああ」って、人それぞれ違うはずだし、しかも憧れがひとりの人である必要はないと。

中原:そうそう。だって、「この人があなたのロールモデル」と他人から言われても、しらけちゃうでしょ。最近は女性活躍推進でなおさら「女性のロールモデルがない」と言われますけど、ロールモデルなんて幻想ですから、あまりとらわれない方がいいですよ。

——「なんか、頭打ち感がある」というぬる〜く、ゆる〜い煩悩が、これほど深い話に発展するとは。「女性のロールモデルがいないから」という話、私自身鵜呑みにしているところがありました。次回は「チームがまとまらない」という煩悩について聞かせてください。