【最新シネマ批評】
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかから、おススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするもう1本の映画は『武曲 MUKOKU』(2017年6月3日公開)です。藤沢周の原作小説「武曲」を綾野剛の主演で映画化した作品。これがもう凄かった、綾野剛が凄すぎた! 剣の達人の人生を描いているのですが、これが狂気をはらんでいて怖いくらいなんですよ。

【物語】

警察官の父(小林薫)に幼いときから剣道で厳しくしつけられてきた研吾(綾野剛)。その指導のおかげで剣の道では一目置かれる存在に成長します。

しかし、厳しい手を緩めることなく突き進む父に対し、研吾は複雑な感情も抱いており、その父との間にトラブルが発生。そのときから研吾の人生は壊れていきます。

そんな時に現れたのが融(村上虹郎)。高校生ラッパーの彼は、ある日、剣道部員にからまれたことをきっかけに、研吾の剣の師匠である光邑(柄本明)に出会います。光邑の影響で融は剣の道へ。やがて、父との確執で苦しむ研吾と闘うことになるのですが……。

【剣を介した親子の物語】

映画に関する予備知識をあまり入れずに鑑賞したせいもあるのですが、綾野剛の壊れっぷりに度肝を抜かれました。また、小林薫も素晴らしくて……研吾の厳しい父の描写は、そんなにしつこく描いているわけではないのに、すごい圧を感じさせます。存在感が強いんですよ。

父に圧倒されている研吾の少年時代~青年期を経て、ときどき挿入される父と息子の間に起こった事件の回想。これにより、何が起こったのかはだいたい想像できるのですが、研吾の壊れっぷりを見るにつけ、その一件がいかに壮絶な出来事だったかわかります。これはまさに男の親子ならではの確執ですね。

母と娘だと心理戦になるところ、父と息子だと力の争い、肉体の闘いになるんですね。もちろんそこに心理は存在しますが、要の勝負は肉体なんです。

【綾野剛の狂気の演技】

父との一件で壊れてしまった研吾は、とてもだらしない様子で、こんな人が道を歩いていたら絶対に職質されるレベルです。一応警備員として働いているときはシャンとしているものの、制服を脱ぐと、常に酒に溺れる酔っ払いでしかない。

そんな研吾に、魂が乗り移った怪演を見せる綾野剛。もともと何でもできる器用な役者だなと思っていたけど、その演技力の幅の広さを改めて感じました。よだれを垂らして闇雲に剣を振り回す姿は、もう意識がどっかに飛んでいるとしか思えません。映画『64 -ロクヨン-』では、真面目で熱い広報室係長だったのに~と、過去作などアレコレ思い出してしまいました。

研吾と闘うことになる融を演じる村上虹郎は、俳優の村上淳とミュージシャンUAの息子。かわいらしいルックスですが、やはりどこか狂気の陰りがあるのがいいですね。今回は綾野が凄すぎたので、ちょっと陰に隠れた感がありますが、随所にキラキラ光る魅力を放っていました。

「綾野剛ステキ~」とキュンとしているファンが、この映画の彼を見たらショックかもしれない。でも役者として、この映画の演技はやりきった感あるのではないでしょうか。綾野剛の狂気をぜひスクリーンで見てください。

執筆=斎藤 香 (C) Pouch






『武曲 MUKOKU』
(2017年6月3日より、新宿武蔵野館ほか、全国ロードショー)
監督:熊切和嘉
出演:綾野剛、村上虹郎、前田敦子、片岡礼子、神野三鈴、康すおん、風吹ジュン、小林薫、柄本明ほか
(C)2017「武曲 MUKOKU」製作委員会

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